Q 先日亡くなった父が、銀行の貸金庫を借りていました。相続手続では、どのように扱えばよいですか?
A 貸金庫契約の法的性質は、賃貸借契約ないしこれに類似の無名契約と考えられ、利用者が死亡した場合、契約上の借主の地位は相続人に承継されます。相続人が複数いる場合には、貸金庫契約の借主の地位は、遺産分割協議が成立するまでは、相続人の準共有になります。(民法第264条)。
Q 遺産分割協議が成立するまでの間、貸金庫の中にある内容物の引渡しを受けることはできないのですか?
A 貸金庫の中にある内容物の引渡しを受けるには、原則として、相続人全員の同意が必要であり、一部の相続人が、その引渡しを受けることはできません。
但し、遺言書に、遺言執行者や一部の相続人に、貸金庫内の内容物引渡請求権を付与する旨の記載がある場合や包括遺贈の場合は、この限りではありません。
Q それでは、遺産分割協議が成立するまでの間、貸金庫の中にある内容物の確認をするには、どうしたらよいのですか?
A 相続人全員の同意または立会いがあれば可能です。
これがない場合に、一部相続人に、貸金庫を解扉して、内容物を確認することを認めるか否かは、金融機関の個々の判断になりますが、一部の相続人が公証人に貸金庫の内容物について「事実実験公正証書」の作成(公証人法第35条)を依頼する場合や、相続財産目録の作成義務のある遺言執行者(民法第1011条)が内容物の確認を求める場合には、相続人全員の同意ないし立会いがなくとも、認められる可能性があります。
Q 貸金庫の中に遺言書があった場合は、どうしたらよいですか?
A 相続人が遺言書を発見した場合、遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出して、検認を請求しなければならないとされていますので(民法第1004条1項後段)、遺言書の引渡しを請求するべきです。金融機関は、概ね、検認のための遺言書の引渡しには応じているようです。引渡しが認められない場合には、家庭裁判所に遺言書が貸金庫の中にあることを示して、遺言書検認の申立をしてみるべきです。
遺言公正証書の場合は、検認の手続は不要ですが(同条2項)、その写しの交付を求めることは差し支えありません。相続人は、公証役場で遺言公正証書の謄本の交付を請求することができます。平成元年より前に作成されたものについては、作成した公証役場には記録が残っていますが、他の公証役場では検索できませんので(平成元年以降に作成された公正証書遺言は、どこの公証役場でも検索できます。)、貸金庫内の遺言公正証書の写しの交付を受けられないときは、少なくとも、作成時期や作成した公証役場についての情報をメモ等に控えるべきです。