稲井法律事務所

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発信者情報開示命令制度について

1 はじめに
 昨今の誹謗中傷問題を受け、プロバイダ責任制限法が改正され、従来の仮処分・本案裁判手続に加え、非訟事件としての新たな裁判手続として、発信者情報開示命令の制度が創設されました(同法8条乃至18条)。従来の手続においては、①インターネット上の書込みがなされた掲示板の管理者等のCP(コンテンツプロバイダ)に対して、発信者のIPアドレス等の発信者情報開示仮処分を行い、②AP(アクセスプロバイダ)に対して、契約者の氏名住所等の発信者情報開示請求訴訟を行わなければならず、当該手続を取っている間にIPアドレス等のログが削除されてしまい、発信者を特定できないなどの問題が存在しました。発信者情報開示命令制度では、発信者の特定を、より簡易・迅速に行うための裁判手続が設けられました。当該制度は、令和4年10月1日から施行され、運用されております。

2 発信者情報開示命令制度の内容
 発信者情報開示命令は非訟事件であると解されています(法17条参照)。一般的には発信者情報の開示がしやすくなったと言われていますが、権利侵害の明白性が認められることが必要であり(同法5条1項)、解除の前提となる要件は緩和されておりません。当該制度では、①発信者情報開示命令(法8条)、②提供命令(法15条)、③消去禁止命令(法16条)の申立てが定められております。①発信者情報開示命令は従前の制度と同様ですが、APに対しても利用できます。②提供命令は特徴的であり、これを受けたCPは、申立人に対してAPの氏名・名称及び住所の情報を提供しなければならず(同法1項1号イ)、申立人がAPに対して開示命令の申立てを行った場合において、申立人がCPに対して2ヶ月以内にAPに開示命令の申立てを行った旨を通視した場合には、CPはAPに対して保有する発信者情報を提供しなければならないとされています(同条1項2号)。③削除禁止命令はAPに対してログの削除を禁止するものです。これらの手続の利用により、わざわざ裁判外の措置やAPに対する訴訟手続きを必要とせずに、発信者の特定を行うことができます。

3 その他
 現在、発信者情報開示命令制度はまだ試行錯誤の状況であり、運用は定まっておりません。特に、提供命令に関しては、GoogleやTwitterなどのCPは、これに応じないかのような姿勢を示しているとの情報も存在するところですので、実務上の動向を注視する必要があります。また、当該制度では、削除請求については規定されておらず、従前の手続を利用する必要があります。その他にも、複数請求の制限(非訟事件手続法43条3項)が適用される可能性も指摘されており、従前手続との使い分けが問題になります。