稲井法律事務所

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事業承継における企業価値評価について

事業承継における企業価値評価について
1 はじめに
 事業承継において第三者承継を検討する場合、M&A(事業譲渡、株式売却等)の可否も選択肢の一つとなりますが、その際、企業価値評価が問題となります。今回は、企業価値評価の手法について説明します。
2 コストアプローチについて
 コストアプローチは、対象企業の賃借対照表に記載されている項目(資産・負債・純資産)のうち、純資産に注目して価値を算出する評価方法です。賃借対照表上の数字をもとに算出するため、比較的簡易に評価できるメリットがあります。他方で、ブランド等の無形資産は評価に含められないというデメリットがあります。コストアプローチには、①簿価純資産評価額法(賃借対照表上に記載されている資産合計額から負債合計額を引いた「純資産額」を企業評価とみなす方法)があります。
3 マーケットアプローチについて
 マーケットアプローチは、類似する取引事例・企業・事業と比較して相対的な価値を算出する評価方法です。市場の需要やトレンドを企業価値に反映できるメリットがある一方、類似の上場会社等がみつからない場合には評価できないデメリットがあります。マーケットアプローチには、①マルチプル法(事業が類似する上場会社の株価を参考に算出する方法)、②類似取引比較法(類似するM&Aの取引事例を参考に算出する方法)、③市場株価法(過去数ヶ月の株価平均を参考に、企業価値を算出する方法)があります。
4 インカムアプローチについて
 インカムアプローチは、対象企業から期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて価値を評価する方法です。対象企業の将来性や成長性を踏まえて評価できるメリットがある一方、将来予測等は客観性に欠け、また評価に手間や時間がかかるというデメリットがあります。インカムアプローチには、①DCF法(対象企業が将来獲得できると期待されるフリーキャッシュフローを使って価値を算出する方法)、②配当還元法(対象企業の将来の配当額を使って企業価値を算出する方法)、③収益還元法(事業計画書に基づいて将来どれくらい収益をあげられるか計算し、資本還元率を利用した算出方法によって、現在の収益に還元して割り出す方法)があります。
5 最後に
 中小企業の事業承継における企業評価については、各アプローチのデメリット等を考慮し、純資産価値を基準にコストアプローチが広く用いられるようになってきているという評価があります。この場合でも、時価純資産価額法や、営業権を別途評価する等により、デメリットを克服する工夫がなされているようです。