成年後見制度の実務と諸問題
1 はじめに
近年の成年後見制度における実務の運用や問題となる事項について、実務ではどのように対応されていますか。
2 申立段階について
Q1 いわゆる囲い込み事案について、実務ではどのように対応されていますか。
A1 囲い込み事案(申立人以外の親族が本人と生活しており、申立人が本人に接触することが困難な事案)では、診断書や財産関係の資料等を用意できないという問題があります。この場合において、親族の協力が得られず、事理弁識能力を欠くと評価できない場合には申立は却下されます。定型書式の診断書ではなく過去のカルテ等が提出される場合もありますが、適確な資料とはいえず、鑑定の実施が検討されます。鑑定について、同居の親族の協力が得られない場合には、家庭裁判所調査官による親族調査を実施し、鑑定への協力を求める運用もされています。鑑定が実施できない場合には、申立手は却下されてしまいます。
3 後見事務・監督事務について
Q2 居住用不動産を処分する場合、家庭裁判所の許可が必要ですが(民法869条の3)、許可の際の考慮要素を教えてください。
A2 ①処分の必要性、②処分による住環境の変化が本人の心身に与える影響、③処分価格等の経済的合理性等が挙げられます。①については、例えば空き家の場合は防犯上のリスク、台風等の災害による近隣への危険、固定資産税の負担等が挙げられます。②については、施設に入所している場合、相当期間が経過していれば許可の方向になりやすいとされています。③については、安価での売却を防ぐ趣旨であるので、査定書や見積書等の提出が求められることがあります。
Q3 近年のインフレの状況について資産の目減りを防ぐために、金融資産の購入等の積極的な資産管理を行うことができますか。
A3 成年後見人は財産管理のための広範な裁量権を有していますが、財産増殖の義務がないため、リスクを取るのは相当ではないと考えられています。投機的な運用によって損失を被らせた場合には、善管注意義務違反のリスクがあるので避けるべきです。
4 死後事務について
Q4 成年被後見人が亡くなり、相続人の一人が喪主として葬儀費用を負担した場合、成年後見人はその費用を支出できますか。
A4 本人の死亡により成年後見は終了しており、「相続財産の保存に必要な行為」(民法873条の2第3号)に該当しないため、預貯金の払い戻し等はできません。相続人間で話し合って解決するよう促すことになります。