2019年改正で変わった遺留分侵害額請求権とは?
1 遺留分侵害額請求権の基本的な仕組み
遺留分侵害額請求権とは、遺言や生前贈与によって相続財産から除外された相続 人が、法律で保障された最低限の相続分(遺留分)を金銭で取り戻すことができる権利です。この制度は、被相続人の財産処分の自由を尊重しつつも、相続人の生活保障や家族の絆を維持するという観点から設けられています。たとえば、遺言で「すべての財産を長男に相続させる」と書かれていても、他の相続人は完全に相続から排除されるわけではなく、一定の割合について金銭での支払いを求めることができます。
2 2019年改正で何が変わったのか
2019年7月1日施行の民法改正により、従来の「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」に変更されました。最も大きな変更点は、請求の効果が金銭債権の発生に一本化されたことです。改正前は現物返還が原則でしたが、これでは不動産などの財産が共有状態になり、かえって紛争が複雑化する問題がありました。改正後は、侵害額に相当する金銭の支払いを求めることになり、より明確で実用的な解決が可能になっています。その他に、改正法では、遺留分の対象となる相続人に対する贈与は被相続人死亡の10年以内になされたものを知っていた場合に限り、10年以上前の贈与であっても相続財産に加算することにしました。さらに、改正により、遺留分侵害額に相当する金銭を直ちに準備できない受遺者・受贈者は、裁判所に対して支払期限の猶予を求めることができるようになりました。
3 請求できる人と遺留分の割合・計算方法
遺留分を請求できるのは、配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属(父母・祖父母等)に限られます。兄弟姉妹には遺留分はありません。遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合に相続財産の3分の1、それ以外の場合は相続財産の2分の1です。たとえば、配偶者と子2人が相続人の場合、遺留分全体は相続財産の2分の1となり、配偶者が4分の1、各子が8分の1ずつとなります。具体的な侵害額は、遺留分額から遺留分権利者が実際に取得した財産額と特別受益額を差し引いて計算します。相続債務がある場合は、その負担分も考慮されます。
4 請求手続きの具体的な流れ
遺留分の侵害額が認められる場合、まずは侵害額の支払いを求める通知書を作成し、相手方に送付します。内容証明郵便を利用することで、通知の事実と時期を明確にできます。相手方が任意に支払いに応じない場合は、原則として家庭裁判所での調停を行い、調停不成立の場合は簡易・地方裁判所へ訴訟提起することになります。
5 時効と注意すべき重要なポイント
遺留分侵害額請求権には厳格な時効があります。相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、また相続開始から10年で時効により権利が消滅します。特に1年の短期時効には注意が必要です。遺留分の問題は家族間の紛争に発展しやすいため、専門家による適切な法的サポートを受けながら解決を図ることが大切です。