稲井法律事務所

ご質問・ご相談

遺族年金と内縁の妻

Q 遺族年金を受給することができるのは、誰ですか。
A 遺族厚生年金の場合、これを受けられる遺族は、被保険者または被保険者であった者の死亡の当時、その者によって生計を維持されていた配偶者・子が優先的に受給できます。但し、子が受給できるのは、原則として、18歳に達する日以後の最初の3月31日までです。

Q 内縁の妻は、遺族年金を受給することができますか。
A 厚生年金保険法等は、遺族年金の受給者である「配偶者」について、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む」と定義付けしていますので、この要件を充たせば、遺族年金を受給することができます。

Q 「事実上婚姻関係と同様の事情」とは、どのような事情を言いますか。
A 被保険者との関係において、お互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいるという事情です。

Q 戸籍上の配偶者がいる場合でも、内縁の妻は、遺族年金を受給することができますか。
A 最高裁は、戸籍上の配偶者がいる場合に、法律婚について、20年以上別居を続けており両者は婚姻関係を修復する努力をしていないこと等の、内縁について、男が法律上の妻と別居した後に親密な関係となったこと、男と同居して夫婦同然の生活をするようになり、男の収入により生活を維持していたこと等の事実関係の下で、重婚的内縁の配偶者にも遺族厚生年金の受給権を認めていますので(平成17年4月21日判決)、戸籍上の配偶者との法律婚が形骸化しているか否かの判断が重要になります。

Q 民法の規定に違反する内縁関係の場合でも、内縁の妻は遺族年金を受給することができますか。
A 
最高裁は、直系姻族間の婚姻禁止の規定(民法735条)に違反する、妻と亡夫の先妻の子との内縁関係の場合については、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係にある者」に当らない、と判断していますので(昭和60年2月14日判決)、この場合、遺族年金は受給できません。
 一方で、最高裁は、「三親等内の傍系血族間の婚姻禁止の規定(民法734条1項)に違反する、姪と叔父との内縁関係の場合について、それが形成されるに至った経緯、周囲や地域社会の受け止め方、共同生活期間の長短、子の有無、夫婦生活の安定性等に照らし、反倫理性、反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる場合には、上記近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するというほうの目的を優先させるべき特段の事情があるものというべきである。」として、当該事案では、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係にある者」に該当する、と判断していますので(平成19年3月8日判決)、この場合は、個別具体的な事情を検討する必要があります。