Q 父が最近亡くなりましたが、その相続人は配偶者と長男と次男です。長男に1億円の預金を相続させると遺言したあと、長男が父より先に死亡したとき、長男の子つまり遺言者の孫が右の1億円を代襲相続できますか。
A 結論からいうと、代襲相続できません。
Q どうしてですか。
A 遺言書の記載から、長男が遺言者の相続開始以前に死亡したときは、長男の代襲相続人に相続させる旨の意思が認められなければ、その遺言は効力を生じない、というのが判例です(東京地裁平成6年7月13日判決、金融・商事判例983号44頁)。
Q その一億円はどうなりますか。
A 1億円は相続人全員により相続され、遺産分割の対象になります。法定相続分により相続されたとすれば、配偶者が5千万円、長男の子(遺言者である父から言えば孫)と次男が各2千5百万円を相続することになります。
Q では長男が遺言者より先に死亡したとき、長男の相続分を長男の子、すなわち遺言者の孫に代襲相続させるにはどうしたらよいでしょうか。
A 遺言書の中に、遺言者の長男に相続させるが、万一遺言者より先に長男が死亡したときは、長男の子に長男に代わって代襲相続させる旨記載しておくべきです。
Q もし遺言書に、右のような代襲相続させるとの文言がないときは、どうすればよいでしょうか。
A 長男が死亡したら、ただちに新しい遺言書を書いて、遺言者の孫に代襲相続させる旨定めなければなりません。遺言書が2通ある場合は日付の新しい方が有効ですから、前の遺言を撤回すると書き忘れても新しい遺言書が有効になります。
Q 前の遺言書があるのですから、新しい遺言書は、改めたい部分だけを記載するとか、多少形式等に不備があっても差し支えありませんか。
A いいえ、駄目です。きちんとした遺言書を書いておくべきです。
● この話の基の東京地裁の判決は・・・ 遺言者は昭和58年3月17日付の遺言書で、全財産を長女1人に相続させると遺言しました。ところが長女は昭和63年3月20日に死亡し、遺言者は平成4年8月9日頃に死亡したのです。遺言者は平成4年8月10日付の遺言書を作成し、全財産を長女の遺児三名に代襲相続させる旨記載しました。しかしそれには押印がされていなかったのです。そのため法定の方式を欠き、自筆証書遺言としての効力が生じないから昭和58年の遺言書を取り消したとはいえないとされたのです。
自筆証書遺言の方式はこのように厳格に要求されますから、万一子が自分より先に死亡したときは、すぐに遺言書を書き換えて孫に代襲相続させるようにしておかなければなりません。