(1)
Q 病気や交通事故などで重体となった人が遺言を残したいと希望した場合、どうしたらよいでしょうか。
A その人が自分で文章を書くことができる状態であれば自筆証書遺言を作成すればよいのですが、文章を書くことができない状態のときには、「危急時遺言」という方式の遺言をすることができます。
危急時遺言というのは、病気や怪我などで死に直面している人が、自分で文書を書かなくても、又、署名することすら必要でなく、第三者に口述するだけで作成することができる遺言の方式です。
(2)
この危急時遺言が有効となるための要件は次のとおりです。
①病気その他の理由により死亡の危急に迫っていること
②証人3人以上の立会があること
③遺言者が証人のうち1人に遺言の趣旨を口述し、その証人がこれを筆記すること
④筆記した証人がその全文を遺言者及び他の証人に読み聞かせること
⑤各証人が筆記の内容が正確であることを承認し、署名捺印すること
⑥遺言の日から20日以内に、遺言者の住所地を管轄する家庭裁判所に請求して遺言の確認を受けること
⑦但し、遺言者が普通の方式の遺言をすることができるようになった時から6ヶ月間生存したときは危急時遺言は失効する。
(3)
危急時遺言では、他の方式の遺言と異なり、特別に、家庭裁判所による遺言の確認の手続が必要です。
遺言の確認というのは、遺言が遺言者の真意に出たものかどうかについて、裁判所が確認する手続です。
この確認の審判の際には、遺言者が生存していれば、裁判所が直接遺言者に面接するなどして真意を確認しますし、遺言者が死亡していたり、意識不明の状態の場合には、遺言が遺言者の真意に基づいたものか否かについて、医師、看護婦その他の関係者などから事情を聞くなどして、詳しい調査がなされます。
したがって、危急時遺言をするときには医師の立会を求めるなどして(証人になってもらってもよい)、後日の遺言の確認のための準備をしておくことが肝要です。遺言者や証人が作成した遺言にかかわるメモなども確認のためには有用な資料となりますので捨てずにとっておくべきです。
(4)
危急時遺言を執行するためには、遺言の確認に加えて遺言の検認も必要です。
遺言の検認というのは、遺言の形式その他の状態を家庭裁判所が調査確認するための手続で公正証書遺言以外はすべての遺言で必要とされているものです。
なお、遺言者が重体であっても、時間的に公証人に来てもらうだけの余裕がある場合には、危急時遺言を作成するのではなく、公証人に出張してもらって公正証書遺言を作成したほうがよいでしょう。公正証書遺言であれば、確認や検認の手続は不要です。