稲井法律事務所

ご質問・ご相談

民事信託と事業承継

Q 日本で増大する高齢者の対策としては、後見制度や遺言よりも民事信託(家族信託)が有効だといわれていますが、その理由をご説明頂けますか。
A 
後見制度は、認知症になってから医師の診断書を基に裁判所に後見人を選任して貰うのですが、実際は不動産の管理や銀行との取引など、認知症になってからでは遅いという問題と、後見人は、本人の不動産を原則として処分できないというデメリットがあります。
  遺言制度は、本人が死亡してからでないと効果がないのに対し、民事信託では不動産や預金の管理など死亡前の問題も対処でき、また、2世代(孫の代まで)に亘る不動産承継制度もコントロール可能だということにあります。

Q 民事信託は、中小企業の事業承継にも利用できるのでしょうか。
A はい、例えば、将来的に長男を後継者にしたいが、未だ経験が少ないというときに、受託者を番頭さんにして、自社株式を受託者に信託し、剰余金配当請求権などの自益権を受益者である長男に与え、議決権の行使については現経営者を指図権者として、株式名義人たる受託者が行使するというスキームをとります。
  弁護士は受託者にはなれないので、信託監督人又は受益者代理人として就任します。

Q 相続人予定者が複数の場合、遺留分対策はどうなのでしょうか。
A 
遺留分権利者には第1の方法として無議決権株式を受益者として受け取るようにします。税法上は株の評価は議決権がある場合とない場合は同じになっています。
  第2の方法として自社株を長男に生前贈与する方法があります。
  暦年贈与では年間110万円まで、又、相続時精算課税制度を使えば2500万円まで非課税です。この場合、新民法で相続前10年以上経過したものは、遺留分侵害額請求権(金銭債権)の対象になりません。

Q 受託者が信用のおける人ならよいのですが、そうした人が見つからない場合はどうすればよいのでしょう。
A 民事信託では受託者に適材を得ることが問題で、そうした人がいない場合、一般社団法人又は免許を得た信託会社(ほがらか信託株式会社等-信託銀行とは異なる)を利用する方法もあります。
  但し、信託会社を利用する場合、建物については耐震性や法適合性のチェックがあります。
  信託会社の場合費用がかかりますが、民事信託の場合と比較してそれ程高くないと言われています(例:受託金銭2000万円の場合、信託設定時20~30万円、信託期間中月額3000円、臨時払5000円、信託終了時5万円)。どういったスキームを採用するかは、弁護士と充分ご相談ください。