稲井法律事務所

ご質問・ご相談

不動産賃貸借と認知症対策

Q 日本も高齢化時代に入り、退職後の生活の安定が重要なテーマですが、不動産貸借による収入もその方法として有力な手段だと思います。しかし、父のように認知症の疑いがある80歳台にもなると物件の修繕や税務処理、契約書の取り交わし等が充分対応できない場合が想定されます。どうしたら良いでしょうか。
A 認知症をめぐる法制度としては大きくは法定後見人制度、任意後見人制度、家族信託による方法の三つがありますので、これを説明したいと思います。
 まず、法定後見人制度ですが、これには、後見、保佐、補助の三つの類型があります。後見は、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある場合、保佐は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な場合、補助は、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な場合に、申立により、家庭裁判所から、それぞれ、成年後見人、保佐人、補助人が付されます。
 権限は、成年後見人は代理権と取消権が認められ、財産管理と身上監護に関する事務を行います。保佐人は民法13条1項(領収、借財等)の行為について同意権、取消権が認められ、家庭裁判所の審判により、特定の法律行為について代理権が認められます。補助開始の審判には、本人の同意が必要なのですが、民法13条1項所定の行為のうち、本人が希望する一部について同意権と取消権が認められます。

Q 不動産賃貸借の場合はどうですか。
A 後見では、既に賃貸借契約がある場合には、賃料を受領したり、必要な修繕を行ったりすることは認められるでしょうが、新しく賃貸用マンションやアパートを購入することは投資行為で許されないと解されます。又、ローンを設定するなど居住用の不動産の処分行為をするには家庭裁判所の許可が必要です。

Q 任意後見制度についてお願いします。
A 任意後見制度とは、本人の判断能力が正常な時期に、本人と任意後見受任者との間で、本人の判断能力が不十分になったとき、代理権を付与する制度で、公証人役場で契約し、任意後見人監督人が選任されたときから効力が生じます。本人の意思で受任者や代理権を付与する範囲を決められるという特色があります。
 不動産賃貸借が任意後見を始める前からある場合、その管理を任意後見人が出来ますが、契約書の代理権の範囲内であっても、新しく賃貸マンションやアパートを購入することは、後見監督人による、本当にそれが本人の為になるか、それとも目的が相続人や親族の利益にあるかの判断にかかります。

Q 家族信託についてお願いします。
A 
家族信託とは、信託法に基づくもので、信託の設定者が法の定める方法で、信頼できる特定の者に対して不動産や金融資産などの財産を移転(信託の名目で譲渡の登記)することにより、委任を受けた者が、定められた信託目的に従って信託の利益を受ける者のために当該財産の管理や必要な処分などをする制度です。
 所有権は受託者に移転しますが、信託人には受益権が残り、それが相続の対象となります。他の制度と異なり、本人の意思能力の欠如を要件としないのが特色です。新しい投資用マンションの購入もそれが長期的管理機能としてローン支払後充分生活が成り立つものであれば許されます。

Q 受託する人がしっかりした人でないといけませんが、そのチェックはどうしますか。
A 
信託監督人となるべき者を指定し、チェックしてもらうこともできます。
 しかし、受託者に対して不安をもっている場合、民事信託行為は再考した方がよいでしょう。弁護士が報酬を得て受託者となることは、信託業法に違反することになるので、信託銀行等にお願いして管理して貰うのが良いと考えます。