稲井法律事務所

ご質問・ご相談

高齢者夫婦の遺言と任意後見契約

Q 高齢者夫婦の間で遺言をするには、どのような点に注意すべきでしょうか。
A 夫Aが年上で先に亡くなるのが普通ですが、夫として誰でも願うことは自分の死後、妻Bが幸せに余生を送れることです。
 そのためには夫婦が現在住んでいる家屋とその敷地は、妻Bに相続させるのが良いかも知れません。

Q 妻Bに全財産を相続させて、妻Bの死後、妻Bの財産を子供達に相続させるのは如何でしょうか。
A 妻Bの老後の生活を安定させる点では、一番確実な方法です。しかし仮に子が3人いるとして、相続財産の評価が1億6千万円(相続税法19条の2)を超える場合、子甲、乙および丙の相続分を遺言者から直接甲、乙および丙に相続させれば1回ですむ相続税を2回払うことになり、その点では不利です。

Q では長男甲に全財産を相続させて、その代わり、長男甲に母Bの生活費を全部負担させるのは如何でしょうか。
A 相続税のことだけを考えれば有利ですが、長男甲以外の子乙および丙から遺留分減殺請求されて、子供達の間で訴訟で争うことになりかねません。
 この例では、遺留分は相続分の2分の1ですから、子供はそれぞれの相続分6分の1の2分の1で、全財産のて12分の1を引渡せと請求できます。

Q 妻Bにも遺留分はありますか。
A 妻Bからも相続分2分の1の2分の1で、全財産の4分の1の遺留分があります。

Q 他に何か不都合なことがありますか。
A 妻Bの立場が不安定になることが問題です。
 遺言者Aにとって長男甲は信頼できると思っても、妻Bからみれば甲の妻もいることであり、甲に扶養される立場というものは居づらいものです。
 また、もし長男甲が事業に失敗したりすると、妻Bの老後の生活を支えるものは、妻Bの年金しかないことになります。やはり妻Bの固有の財産があって気ままに暮らせる方が良いにきまっています。

Q しかし妻Bが高齢のためぼけて、財産の管理能力がなくなったときのことを考えると、心配なのですが。
A 妻Bに相続させて、別に任意後見契約を利用するのも、一つの方法です。この契約は妻Bが判断能力の十分な間に公正証書で契約するのです。
 例えば長男甲を任意後見受任者とし妻Bとの間で任意後見契約を締結すれば、将来妻Bの判断能力が不十分になったときは、妻B本人・配偶者・4親等内の親族または任意後見受任者の請求により家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。それにより任意後見受任者は任意後見人になります。すると長男甲は、契約内容に従って妻Bに代わって妻Bの財産を管理することになります。
 なお、任意後見監督人が選任されるのは任意後見人だけにまかせきりにせずに、公正な後見が行われるようにするために必要なものです。