Q 事業承継で持株会社スキームを活用する場合があると聞きました。
A 遺産分割対策として、企業経営者が相続人の一人である後継者に株式を確実に移転させる場合、株式を生前贈与した上で、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)に定める遺留分に関する民法の特例を用いて、事業承継に伴う遺留分に係る紛争を抑止することが行われています。
但し、その特例を用いるには、後継者と後継者以外の遺留分を有する推定相続人との間において、除外合意(贈与財産を遺留分算定基礎財産から除外する合意)ないし固定合意(贈与財産を遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定する合意)が必要になりますが、推定相続人が協力的ではなく、そのような合意ができない場合があります。
また、企業経営者が株式を生前贈与してしまうと老後の生活資金が枯渇してしまう場合もあります。
そこで、企業経営者が後継者に株式を生前に贈与するのではなく、譲渡(売却)する方法が考えられますが、この方法において、持株会社スキームを活用する方法があります。
Q 株式を生前贈与するのではなくて、譲渡(売却)する方法のメリットは何ですか?
A 企業経営者の引退後の生活資金を賄うことが可能になるほか、その財産が非上場株式から現金に組み替えられることになり、遺産分割が容易になります。株式の売却価格が適正であれば、後継者以外の相続人から特別受益を主張されるおそれもありません。
さらに、業績が非常に好調で、将来の株価上昇が確実な事業を営んでいるのであれば、株式売却による現金化により、相続財産の増加を防ぎ、相続税の負担を減少させることもできます。
Q 株式を譲渡(売却)する方法において、どのように持株会社スキームを活用するのですか?
A 具体的なスキームとしては、後継者が持株会社となる法人を設立し、持株会社は自己資金や銀行からの融資で株式買取資金を調達し、企業経営者に支払います。持株会社が株式を買い取ることによって、後継者は会社を間接的に支配する所有構造となります。
Q 持株会社となる法人が株式買取資金を調達できない場合にはどうすればよいのですか?
A 株式買取資金を企業経営者に分割払いすることや社債を発行することも考えられます。
また、法人が準備できる株式買取資金の額を考慮して、会社の事業の一部を移転する方法もあります。例えば、会社の高収益部門を法人に事業譲渡したり、もしくは、高収益部門を分社化して子会社を設立し、その株式を法人売却する方法です。
Q 持株会社スキームを活用することのメリットは何ですか?
A 事業会社の経営権(支配権)は持株会社にあることから、企業経営者は、黄金株(拒否権付株式)等を保有するすることにより、持株会社に一定のコントロールを及ぼしつつ、後継者に対する事業承継を進めることが可能です。
また、後継者が承継した事業の経営に関心や十分な能力がない場合でも、後継者において事業に対する支配権を有したまま、適宜、事業会社の経営を適した人材に任せることも選択できます。