稲井法律事務所

ご質問・ご相談

取引基本契約書作成のすすめ

Q 取引基本契約書とはどういうものですか。
A 継続して商品を売買する関係にあるものの間で、例えばメーカーと商社間、商社と小売店間で売買についての取扱品目や支払条件のような毎回の売買契約に共通の事項を予め定めておくための契約のことです。これに対して、毎回の売買契約のことを個別売買契約といいます。

Q どうして取引基本契約書が大切なのですか。
A いざというときに効力を発する重要な事項を予め定めておけるからです。

Q 重要な事項とはどんな項目ですか。
A ①期限の利益喪失、②損害金の定めおよび③合意管轄の3項目は最も重要です。

Q 期限の利益喪失とはどんなことですか。
A 買主が手形不渡りを出したとか、破産を申し立てられたとか、自己破産を申し立てたとかの事実があれば、買主が売主に対して負っている他の債務についても期限が到来して、売主はただちに全額を支払えといえることです。

Q どのような場合に役立つのですか。
A 例えば、手許に買主振出の約束手形が3通あり、満期が最初の1通は10月末日、2通目は11月末日、3通目は12月末日で、額面はいずれも金100万円であったとしましょう。
 特別に期限の利益喪失の約定がないときには、最初の1通が10月末日に不渡りになったので、支払えと請求する場合、最初の1通の金100万円についてだけしか請求できません。2通目と3通目は満期が到来していないので、売主は2通目については11月末日まで、3通目については12月末日まで待たないと振出人である買主に支払えと請求できないのです。
 ところが、取引基本契約書に不渡りを1回でも出したら全債務について期限の利益を失うと定めてあるときは、不渡り分だけでなくまだ満期の来ていない手形を含めて3通の合計金300万円についてただちに請求できます。
 もっとも買主が破産宣告を受ければ、取引基本契約書がなくても期限の利益を喪失します。しかし破産を申し立てたとか、申し立てられただけでは期限の利益を喪失しませんので、これらの事実を、取引基本契約書により期限の利益喪失の理由に定めておく意味があるのです。

Q 損害金の定めとは。
A 期限後の損害金について規定がないと、商法によって年6分の損害金が請求できることになります。これを日歩5銭(年18・25%)の割合とか、年14・6% (日歩4銭)とか定めてあると、かなり有利です。

Q 合意管轄とは何のことですか。
A 民事訴訟は債務者の住所地を管轄する裁判所へ提起するのが原則ですが、それを債権者の住所地の裁判所や仲裁機関などへ提起してもよいと定めておくことです。

Q どのようなメリットがありますか。
A いざ訴訟となったとき、自社の住所地で裁判するのと、相手方の住所地の裁判所へ出かけるのでは、遠方であればあるほど経費の負担に大変な差が出ますから、取引基本契約書に必ず入れておくべきです。