稲井法律事務所

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民法改正―債権法―

1 民法改正の経過
 民法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分りやすいものとするため、平成29年5月に民法改正案が国会で議決され、消滅時効、法定利率、保証、定型約款等、多くの事項が改正されました。今回は、売買契約に関する主な改正点について説明します。売買契約に関する改正規定は、平成32年(2020年)4月1日から施行されることになっています。
2 改正の目玉
 売買契約に関する主な改正点は、売買の目的物に瑕疵があった場合の規律である「瑕疵担保責任」が廃止され、「契約内容の不適合」という概念が導入されて「買主の追完請求権」や「買主の代金減額請求権」が新設されたことです。
 加えて、契約の一般原則である契約の解除の条項が改正され、契約不履行により売買の目的が達成できない場合には、売主の責任の有無にかかわらず、催告を要せずに契約が解除できる場合が明記され(改正法542条)、逆に、催告した上での解除であっても、債務不履行が、その契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除できないと明記されました(改正法541条)。
3 改正の概要
 売買契約が履行されないときは、買主は「履行の強制(改正法414条)」、「損害賠償請求(同415条)」、「契約の解除(同541条、542条)」等を行うことができます。これらは、改正前とあまり変わりはありません。
 改正前には、これらの他、瑕疵担保責任に関する規定(現行民法560条~570条等)がありましたが、その解釈をめぐる対立などもあり、今回の改正で瑕疵担保責任の制度が廃止され、売買契約の内容が適正に履行されない場合の規律として「買主の追完請求権(改正法562条)や「買主の代金減額請求権(同563条)」が新設されました。
 改正法第562条は次のとおりです。
 「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。(以下略)」
 改正法第563条は次のとおりです。
 「前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。(以下略)」
 但し、売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものを買主に引き渡した場合に、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない、と定められており(改正法566条)、又、商人間の売買では、買主に検査義務が課され、ただちに売主に対して契約不適合の事実の通知を発しなければ、履行の追完、代金減額、損害賠償、契約解除等ができなくなることが定められている(商法526条)ので注意が必要です。