稲井法律事務所

ご質問・ご相談

過失による責任

Q 他人に損害を与える行為をした場合、行為者に故意はなく、過失のみがあった場合にも損害賠償責任を負うのですか?

 民法上、行為者に故意もしくは過失がある場合には、それぞれ他の要件を満たせば、不法行為責任や債務不履行責任を負うことになります。

Q 過失はどのような場合に認められるのですか?

 いろんな考え方がありますが、「予見可能性を前提に行為者に課される結果回避義務の違反」がある場合に過失を認めるのが通説的見解と言えます。

Q 予見可能性があったかどうかはどう判断するのですか?

 行為者には、その種類の行為がもつ一般的・抽象的危険性から、その行為者の職業、地位などに応じて一般的に期待される、その危険を具体的に認識し、結果発生を予見する義務が課されますが、その義務の有無により判断されます。
 自動車で走行中子供が道路に飛び出して来て事故が発生した場合、その道路の種類(高速道路か一般道路か)や周囲の状況(商店街か郊外か)等によって、予見可能性の有無は異なってきます。

Q 予見可能性が全くなければ、過失が認められないのですか?

 通説的見解ではそうなります。

Q 行為者に予見可能性があるとすると、それに応じた結果回避義務が課せられて、結果が発生した場合には過失が認められるのですか?

 結果回避義務は、結果発生を回避するために適切な措置をとる義務ですので、結果を回避するための適切な措置をとっているときや、技術的・経済的に結果発生が不可避なときは、結果が発生しても、義務違反とはならないと考えられます。
 但し、結果回避義務の内容は、予見される結果の重大性との相関関係で決まり、生命や身体のような重大な保護法益が侵害される場合には、不作為まで要求されることがあり、この場合には、作為に及んだことが結果回避義務違反となります。例えば、腎機能が低下している患者にヨード造影剤を使用する場合には造影剤腎症を発症するリスクがあり、発症を回避するために使用を控えなければ、過失が認められることがあり得ます。

Q では、過失もない場合には損害賠償責任を負うことはありませんか?

 過失がなければ責任を負わないのが原則です(過失責任の原則)。例外的に、無過失責任が定められている場合があります。工作物の設置又は保存の瑕疵についての所有者の責任や原子力損害についての原子力事業者の責任がそうです。
 また、使用者責任や自動車運転供用者の責任は、責任を免れる要件が厳格であることから、無過失責任に近い過失責任と言われています。