稲井法律事務所

ご質問・ご相談

会社分割と詐害行為

Q私の持っているゴルフの預託金返還請求権について相談したいのですが、元々このゴルフ会員券はAという会社が発行したのですが、会社分割でBという新設会社に事業は承継されました。私は預託金返還請求権は当然Bという会社が承継するのかと思っていましたから、会社はBには債務を引き継がず、設立会社の株式を適正価格で売却して分割会社の残存債務の支払に充てて、それでも残存債務の履行が出来ないのだから合法だというのです。どうしたら良いのでしょう。

Aこの問題は、会社分割の法制と関連します。平成12年の会社分割法制では、①承継対象を「営業」に限定し、②「債務の履行の見込みのあること」を効力要件とし、③「各別の催告」(個別催告)の省略を認めず、④個別催告のない債権者を保護するため、分割の日現在の会社財産の価格を限度とする連帯責任を定めていました。ところが平成16年に電子公告制度に関する債権者異議手続きの「合理化」として資本減少とか会社分割においても合併と同様の二重広告(官報のほか日刊新聞紙電子公告による公告)をするため個別催告が不要となりました。

会社法810条で(会社分割の)異議申述広告では異議申述者には原則として弁済・担保提供の保護措置が講じられるのですぐ申し述べない債権者は、会社分割を承認したものとされるのです。しかしこのような電子公告は現実には見ない人の方が多いのでこのような問題が起ります。

Qそれでは、私のような問題は全く救われないのでしょうか。

Aいいえ、いくつかの救済制度があります。①譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を継続して用いているとき会社法22条1項の類推適用により債権者に対し同事業により負担する債務を弁済する責任を負うとした判例(最判平20・6・10、東京地判平22・7・9等)②Bの承継資産がAが保有する無担保資産の殆どであるような場合、会社法上、新設分割無効訴訟制度があるからといって、新設分割について詐害行為取消権の規定の適用が妨げられる理由とはならず、本件においては詐害行為取消といっても現物返還でなく価格賠償の効力しか有せず、分割そのものを否定するのではないので、取消権を行使し、価格弁済の被保全債権を保全するため必要な範囲を取消せるとしたもの(東京地判平22・5・27)
③破産法上の否認権の行使対象となるもの(福岡地判平22・9・30)
④旧会社の営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合、法人格否認の法理(形式的には別人格の二法人を同一のものと見ること)により新設会社は債務を負うとしたもの(最判昭48・10・26)明確な執行妨害を目的とした場合(最判平17・7・15)も同様に新会社が債務を負うとしたものなどがあります。

Q詐害行為取消の訴とは、具体的にどうするのでしょう。

A例えば土地建物を承継させたことが詐害行為になる場合(民法第424条、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為――例えば不動産の名義書換えは差押えを免れることを知って行った)会社分割のうち、不動産の所有権移転に係る部分の取消しを、そして不動産につきなされた所有権移転登記の抹消を転得者であるB社に求めます。
なお、先頃、表題にピッタリの判例(最判平成24年10月12日判決)が現われたことを付言しておきます。