稲井法律事務所

ご質問・ご相談

債権譲渡と詐害行為

Q 倒産しそうな会社からその会社の売掛金につき債権議渡を受けた場合、他の債権者から、その債権譲渡を詐害行為として取り消されることがあると聞きましたが、そのようなことがあるのですか。

A 裁判所は、「債務超過の状態にある債務者が、他の債権者を害することを知りながら特定の債権者と通謀し、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもとに、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡したときは、たとえ譲渡された債権の額が、右債権者に対する債務の額を超えない場合であっても、詐害行為として取消の対象となる(最高裁、昭和48年11月30日判決)」と述べています。

Q 具体的には、どのようなことですか。

A 例えば、多額の負債を負ったB社が倒産しそうだとの噂を耳にしたA社が、A社のB社に対する300万円の債権を回収するために、B社に急行して、B社の唯一の資産であるB社のC社に対する100万円の売掛金債権を譲渡してもらったとします。すると、A社はその売掛金100万円をC社から回収することにより一部弁済を受けられることになりますが、B社に対する他の債権者は、B社から全く弁済を受けられなくなってしまいます。このような場合に、他の債権者(D社とします)は、A社に対して、A社がC社から取り立てた金額の中から、D社のB社に対する債権額(100万円とします)について、A社に返還を請求することが出来るのです。

Q A社としては、自分の債権を回収しようと努力して債権譲渡を受けたのに、あとからやってきた他の債権者に対してその回収したものを支払わねばならないというのは不合理ではないですか。

A 債権者は平等であるべきだという法律の建前から、抜け駆け的に一人だけ先に債権の回収をしてしまうのを許さないことにしているのです。

Q A社としては、正当な権利行使をしただけであるとして、D社の要求に応じなかった場合にはどうなるのですか。

A この詐害行為による請求は、裁判所に訴える方法によって行うものとされていますので、D社は訴訟を提起してくることになります。ですから、A社としては、その訴訟の中で、詐害行為にならないことを主張するしかありません。

Q 詐害行為に当たるとされた場合には、A社は100万円をD社に支払う必要があるのですか。債権者平等と言うなら、A社(300万円)とD社(100万円)の債権額に応じて取り立てた100万円を3対1の割合で分配すべきではないですか。

A 現在、裁判所は、詐害行為が成立する場合には詐害行為の金額すべて、この事案ではD社の債権額である100万円について、A社からD社への支払を命じています(最高裁、昭和46年11月19日判決)。しかし、この判例に対しては、批判する有力な学説があり、債権者間の債権額で按分するべきだ(この事案では、A社はD社に対して25万円を返還すればよい)と主張されています。
 最高裁が、このような判断をしている背景には、会社の倒産時における強引な取立行為を助長させてはならない等の政策的な配慮が働いているのかも知れません。