Q 民法の相続関係の部分が改正されると聞きました。
A 改正法案は平成30年3月13日に国会に提出され、これから審議される予定です。
改正法案では、新たな制度が創設され、また従来の運用が変更される点もあり、実務に与える影響が大きいと考えられます。
Q 新たにどのような制度が創設されるのですか?
A 被相続人の配偶者の居住権を保護するために、遺産分割による帰属確定日までまたは相続開始時から6ヵ月間は、遺産である居住不動産を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)が創設されるほか、その不動産につき遺産分割等によって生存配偶者に原則として終身の「配偶者居住権」を取得させることができる制度が創設されます。配偶者が「配偶者居住権」を取得した場合には、所有権は取得しないが居住権に相当する価格を相続したものととして扱われます。
また、同様に配偶者保護の趣旨から、婚姻期間20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対して、居住不動産を遺贈や贈与したときには、特別受益の持戻しを免除する意思表示があったものと推定されることになります。
ほかに、重要なところでは、①相続財産に含まれる預貯金(相続人の準共有となって遺産分割の対象となる旨の最高裁判例が平成28年に出されています。)についての仮払い制度が創設され、自筆証書遺言については、②相続財産の目録を添付する場合には、目録の毎葉(両面の場合には両面)に署名押印があれば、目録には自書を要しないとの要件緩和がなされ、③遺言者が自ら法務局に出頭することによって、無封の自筆遺言書の保管を申請する保管制度が創設されます。
Q 従来の運用と変わったのは、どこですか?
A これまで、最高裁判例は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言について、「特段の事情がない限り、何らかの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される。」として、その遺言による権利の移転は、「法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる。」としていました。
しかし、改正法案は、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記・登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない旨の規定を明文化することとされました。
この変更により、実務上、法定相続分を超える部分の権利承継については、早期に登記・登録その他の対抗要件を備えることが必要になります。
Q 従来の運用を明文化するものもありますか?
A 改正前に判例上認められていた事項や実務上要請がなされていた事項について、改正法案で明文化されるものもあります。
①他の共同相続人の利益を害するおそれがない場合には、一部分割ができること、②相続債権者は各共同相続人に対し、指定相続分にかかわらず、その法定相続分に応じてその権利を行使することができること、③被相続人に対して無償で療養看護その他の労務提供をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、相続の開始御、相続人に対し、その寄与分に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求できること等がこれに当たります。