稲井法律事務所

ご質問・ご相談

転勤と出向

Q 私の主人は某メーカーに勤務するのですが、この度東京から名古屋に転勤することに内示されました。ところが、私は東京で保育所の保母として勤め始めたばかりなので、主人は単身赴任はしたくないと言っているのですが、そういう理由で転勤拒否は出来るのでしょうか。
A 採用されたとき、勤務地を限定されたのでなければ拒否出来ません。
 最高裁判所の判例(最判昭和61・7・14東亜ペイント事件)では、あなたのご主人のような理由で転勤を拒否した結果、懲戒解雇が有効とされた例があります。
 判決例は、配偶者の有無、夫婦共働きをしているか、マイホームを持っているか、子供の教育や親の扶養の事情など家庭生活上の不利益は転勤に伴い、通常甘受すべき程度のもの、と言っています。

Q そうすると裁判所は、仕事のためには家庭はどうなってもよいと言っているのでしょうか。
A そこまでは言っていないので、1歳未満の子の為の育児休業や介護休業(無給)等、どうしても必要な場合は、それを認めなければならないことになっています。
 あなたの場合は、ご主人に単身赴任で頑張って貰うより仕方ないでしょう。

Q 主人の友人は、系列会社へ出向するよう命ぜられているようですが、これも断わるわけにいかないのでしょうか。
A 裁判所は、出向は労務提供の相手方の変更である点で転勤と異なると考え当初は、労働協約、または就業規則に明確な定めがない限り使用者の出向命令権は認められない、と言ってきました。
 しかし最近は、その職場の実際が、親子企業間や密接な関連企業間での業務提携、技術修得、人事交流などのために、配転と同様に日常的に行われ、従業員も当然のこととして受け入れている現実がある場合、明確な規定がなくとも、従業員に包括的な同意があったと看做し、従業員の出向義務を認める例が増えています(例えば名古屋地判昭和55・3・26)。
 従って拒否すると解雇ということも考えられます。

Q よくわかりました、なかなか厳しいですね。主人とよく相談して、私達の将来のことをよく話し合いたいと思います。
A そうですね。大事なことは判例の動向を知った上で、こちらの要望も会社側に上手に伝えることです。